まるで人だな、ルーシー (零真似)レビュー


「ああ、そいつは僕にいらないものだ」

●あらすじ

エキセントリックボックス

普段は20㎝四方の立方体。展開すると、小学生くらいの幼女の姿になる。

エキセントリックボックスは”人身御供”を選ぶ。

人身御供に選ばれた人間は、エキセントリックボックスの能力で”神代”となり、一分間だけ願いを叶えることができる。:

”願い”の代償は”人間らしさ”だ。

一つの願いに付き、一つ。本能から些細な好み、仕草に至るまで、ランダムにそれは決められる。

無機質なエキセントリックボックスは、人身御供から人間らしさをもらって、より人間らしく変化していく。

人身御供となった御剣乃音(みつるぎのおと)は、エキセントリックボックスに沢山の”人間らしさ”を与えていた。

代償はもう一つあった

神代になった乃音の姿を見た人間は

乃音の存在そのものを忘却する

誰かを救うたびに孤独になっていく御剣乃音。

そして、人間らしさを貰い続けたエキセントリックボックスは、感情に“主体”を持ち始める。

第21回(秋)スニーカー大賞、優秀賞受賞 最終選考会騒然の異色作!


●名(迷)言達

「この関係、最高に気持ち悪いね」by【夕凪さん(お隣の美大生)】
「ああ。僕が望んでいるんだ」by【乃音】
「相手に永遠を残してやるのはたぶん、なかなかに気持ちいいぞ」by【夕凪さん】


●みどころ

もし日常生活の中で、突然ある感情がなくなったら……

をシミュレートをしている作品です。

願いを叶える度に一つの感情が欠落していく。

何よりの特徴は

すでに主人公が末期状態であることです。

誰かを救うことが数少ないアイデンティティになっていて、

街中の些細な喧嘩の仲介にも、主人公は躊躇なく人間らしさを捧げて、神代となります。

スクランブルと名付けられたエキセントリックボックスは、より人間らしくなります。

そして、事件を呼びます。

どんな結末を迎えるのか、なかなか予測できません。


●読んでみての感想

この作品を読む前、タイトル「まるで人だな、ルーシー」

から私が真っ先にイメージしたのは

化石のルーシー(ウィキペディア)でした。

ルーシーという名は数あれど、このタイトルなら猿人のルーシーさんでしょう! と(このルーシーさんの名前もビートルズの楽曲から取ってるんですけどね)

 

しかし、読んでいても、考古学やルーシーの”ル”の字も出てきません。

 

そして読み終えて、このタイトルに納得しました。

ルーシー(だけでなく猿人全般)を巡る学術的論議が、この作品のテーマに深く関わっていました。

猿人はいつから人類になったのか?”

人類は大脳が発達する事で、知恵を身につけ感情豊かになったと言われていますが、その大脳が発達したのはいつ頃なの?

という論議です。

まだまだ議論が交わされていると思いますが(私は学者さんじゃないので詳しくはわかりません)

結論の一つに

”死者に花を手向けたとき”

と言われています。 これは、ある時期を境に

猿人の化石の傍に束になった花の化石が見つかるようになったことから

らしいです。

ここまで来ると哲学の話になりますね。”我思う故に我有り”。はい。

 

この作品は、”人間らしさ”を主題にしています。

ファンタジー設定で

感情が一つずつ、一瞬のうちに欠落していく人間

感情が一つずつ、一瞬のうちに増えていく人間と似て非なる存在

と、

上記のキャラクターが影響を与えてしまう人々(幼馴染みやお隣さん。凄く魅力的です)

を描くことで、テーマを深化させています。

 

ルーシーは、アファレンス原人(アファール猿人)です。現代人の直接の先祖には当たらないと言われています(多分これも論議中)

この物語は、人間と似て非なる存在だったエキセントリックボックス、スクランブルが、まるで人間かのように振る舞いだす作品です。

 

感慨深く、面白かったです。

 

 

本文の前半部分では、詩的な比喩が多く、伝わるか伝わらないかの絶妙な匙加減で表現しています(後半にいくに連れ、文体が変わっていきます)。

歯切れもよいので私は割と好きな文体でしたが、好みが分かれると思うので、一文を引用します。好みが合うかを判断してください。狭い階段を登ってマンションの屋上に向かう場面です。

閉塞感を叩いて延ばしたような階段の先には開けた夜が佇んでいた。粒ほど近づいた、欠けている月と薄らぼやけた星。大三角と大熊の間を明滅する鉄板が羽を生やして飛んでいる。遠くのほうには高い建物がいくつか。街の明かりはほとんどがこちらを見上げている。西には海、東には落日ストリートが眠っていた。一軒家の住宅なんかは宛ら地面に落ちたおもちゃだ。平面のセメントが縦に広がり、端を囲うざらついた壁は簡単に乗り越えられそうだった。

 

”人間らしさ”をテーマにした作品の一つで、私が好きな作品は漫画「寄生獣」(ウィキペディア)です。

主人公シンイチの右手に寄生した謎の生物、ミギーが他人にバレないように共生する話です。

本来なら頭を乗っ取るはずだったミギーは、同胞から半端物として認識され、生命を狙われます。

ミギーには感慨がありません。

シンイチはミギーの生き残るために手段を選ばない様子をみて、少しずつ感覚が麻痺していきます。

「知らない間に、とっくに脳を乗っ取られてるんじゃないか」

それでもシンイチは、”人間らしくあろう”と抗います。

それが何故出来たのかというと、他者がいたからです。

シンイチの変化に気づき、シンイチに影響を与える他者がいました。

そしてミギーも、少しずつ人間の感情を理解していきます。

やがてミギーは思います「心にヒマのある奴。なんと素晴らしい!」

 

 

 

”まるで人だな、ルーシー”

には

乃音が神代能力を行使する度に

神代の能力に影響されたキャラクターは、乃音の存在そのものを忘却する

という、救いようのない設定があります。

止める人がどんどんいなくなっていくのですね。

誰が彼を止められるのでしょうか?

オススメです。

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