「人の不幸は蜜の味、正義の名の元に誰かを叩くのは楽しいからな」
●あらすじ
「勇者共をどうにかしてくれ!」
いきなり剣と魔法の世界に召喚された外山真一に召喚主の“蒼の魔王”は土下座で頼み込んできた。
魔王は可愛い娘のために、美味しい食料を求め人間界に来ただけで、人類に危害を加える気はないらしい。
なのに殺しても蘇える勇者達に毎日襲撃され困っていたのだ。
せっかく異世界に来たんだし、と真一は勇者撃退に乗り出すが、彼の策略は魔族すらドン引きするものばかりで――!!
第18回えんため大賞特別賞受賞作、魔王の参謀となった少年の勇者攻略譚、登場!
●名(迷)言達
「気に入った人々の幸せを笑顔で祝い、ムカついた奴らの不幸を嘲笑う、聖人なんかとはほど遠い、とても普通のゲス野郎なのだから」by【語り手】
「楽してズルして人を追い抜くとか、最高に気分いいなっ!」by【真一】
「種族の垣根を超えた全女性のため、今ここで貴方を消滅させるべきですね」by【セレス(魔王の側近)】
「存じていますよ、ゲス野郎」by【セレス(魔王の側近)】
●みどころ
正面切っての戦闘を回避するために、国王や、女神教の司教、勇者達の心理を見極めて
深く罠を張って実行するシーンがワクワクします。
派手な戦闘シーンがありませんが、上記のシーンが作品全体に散りばめられています。
もう一つのみどころは、 主人公真一とセレスの掛け合いです。
魔王の従者で、実質魔界ナンバーワンの実力を持つセレスが
真一と長い期間行動を共にするのですが、
セレスが毒舌で
真一がゲスです。
ゲスと毒の掛け合いが、笑えます。
とちらかがボケ役、ツッコミ役と分かれることなく
どちらもボケるし、ツッコミます。
●読んでみての感想
何度倒しても、跡形もなく粉みじんに吹き飛ばしても復活して襲撃してくる、”女神の加護”を受けた勇者達の
心を折り、魔王を滅ぼすのを諦めてもらうために真一が
”ゲス”な手段を用いて奔走するのが、物語の主軸です。
タイトルにも、また、本文の多くの場面で
”ゲス”
という単語が使われていますが、
私のイメージしていた”ゲス”とは違っていて、それがとても良かったです。
主人公真一は、俗物的で親近感が湧きます。
しかし、”クズ”ではありません。
「気に入った人々の幸せを笑顔で祝い、ムカついた奴らの不幸を嘲笑う、聖人なんかとはほど遠い、とても普通のゲス野郎なのだから」
上記は迷言でもご紹介した語り手の一文ですが、これがまさに作品のテーマだと思いました。
普通のゲス野郎
これが真一です。
知り合ってしまった人(魔族)を守る為に、どんな手段も厭わない。
真一がその手段を選別する方法は
「いかに自分が傷つかないで、気持ちよくやり遂げられる」か。
で
その心持ちを動機にした真一の行動や、思考は
俗物的ではありますが”クズ”ではない、と私は思いました。
むしろ、考えの浅はかな強者を相手に、卑劣な知略を巡らせる様は中々小気味よいもので(そして、非が人間側にもあるという部分もあって)
”ゲス”には見えない。
と思いました。
主人公は自他共に認めるほど、ゲスではない
……そんな私の印象を、主人公の真一君は察したんでしょう。
彼の行動は次第にエスカレートしていって
読み終わった後の真一の印象は、ヒロインの一人であるセレスが抱いているものと同じでした。
「やっぱり、ゲスですね」
面白かった。
この物語には、ドラクエ(ウィキペディア)のようなRPGにありがちなゲーム設定を
現実世界に落とし込んでいるのですが、それがよく活きています。
・何故、ゲームで勇者がHP1の瀕死状態でも普通に戦えるのか
・何故、勇者は死ぬと近場の町で復活して、所持金が減っているのか
・何故、魔王が脅威になりつつある勇者を最後まで襲わないのか。
これらの設定が
勇者の思考の偏り方や、社会格差や、魔族の倫理観、そして娘に甘っ甘な魔王の”漢”ぷりを描写し、説得力のある世界設定を創っています。
ツッコミどころ満載のRPGのあるある設定を一発のギャグではなく、しっかりと世界観の一部に取り込むことで、物語の魅力を引き出しています。
続きが気になります。オススメです。
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