リンドウにさよならを (三田 千恵)レビュー


●あらすじ

想いを寄せていた少女、襟仁遥人(えりひとはると)の代わりに死んでしまったらしい神田幸久

学校の地縛霊として目覚めた。

「何故、自分は成仏できずにいるのだろうか」

自由かつ退屈な日々を過ごしていた神田は、一人ぼっちの少女と出会う。

クラスでいじめに遭う穂積美咲(ほずみみさき)と神田は友達になった。

一緒に過ごす内に美咲の愛らしさを知った神田は、イメチェンを勧め彼女を孤独から解放しようと試みる。

少しずつ変わり始める美咲の境遇。それがやがて、神田が学校に留まる真実に結びついていく――。

必然の出会いが紡ぐ、学園青春ストーリー。


●名(迷)言達

「髪、切ってみようかな」by【穂積】

「やったよ、神田君」by【穂積】

「昔さ、ある人が言ってた。人間の価値は信念にあるって。僕はこう言った。生きてるだけで価値がある」by【神田】


●みどころ

幽霊になった神田と
神田を視ることができる唯一の女性、穂積が出会い、
二人が共有する時間と空間の中に漂う心の機微が、みどころです。
二人の心持ちが少しづつ変わっていくことで、物語が徐々に加速をつけながら展開していきます。


●読んでみての感想

「青春!!」

ではなく

青春。

という感じの学園青春ストーリーです。

神田は当初、自分が好きだった女性、襟仁の面影を穂積に見いだし、穂積を襟仁に重ねる描写がありますが、

穂積と関わりを深く持つにつれてそれが消え、「穂積の為に何か出来ないか」と、考えるようになります。

穂積も神田と会話することで、自分の心に整理をつけたり、勇気をもらうことで、少しずつ自分を変えようとしていきますが、

最初の動機は「神田君が喜んでくれるといいな」という心持ちだったのが、変化していきます。

お互いを見つめ、相手を想い合うことで、心持ちに小さな変化が訪れます。

その心持ちの変化が連鎖していく様子が繊細に描かれていると思いました。

 

作品のテーマは明確ですが、どストレートで宣言するような青臭さは全くなく、

綺麗だなぁ

と素直な気持ちで読み終えることができました。

 

これはタイトルの一部にもなっている”リンドウ”の存在が、隠喩としての効果を発揮していたからだと思います。

 

登場人物の紹介を含めた巻頭のイラストの中で、作中の台詞を引用している部分があります。

そこではリンドウの花言葉を紹介していました。

引用します。

”花言葉は、「悲しんでいるあなたを愛します」”

さらに台詞は

”リンドウの花畑、本当に珍しいの”

と続きます。

リンドウの花言葉の由来は、(諸説ある内の一つとして)

群生することはなくポツンと咲くことと、花が青紫色でどことなく寂しさを想起させるから。

また、その孤高な出で立ちから「誠実」「正義」という花言葉も持っています。

 

この本を読み終えたとき、私は

この作品に登場するキャラクター達それぞれの心持ちの中に、リンドウの花を見いだしたような気がしました。

一つ所に集うことのない、孤高でありながら、隣人を想う花。

ネタバレではありません。

この隠喩を内包したキャラクター達の

関係や心持ちの機微を垣間見ることが、この作品の最大の魅力だと思います。

 

「読んでよかったなぁ」と思いました。

 

 

気になった所……というか、私的な希望なのですが。

本文の文法は、整然としていてシチュエーションが凄く想像しやすかったのですが、

語り手が一人称(主に神田)なので、もう少し一人称ならではの遊び心があると、読み進めやすいかな、と思いました。

神田ならではの批評性をだしてもらえると、文章にメリハリがつくと思います。

引用します。

”青空の下、美味しいものを食べながら、他愛ない話をする。平和で幸せなひととき。”

シチュエーションは想像しやすいのですが

”美味しいものを食べながら、他愛ない話をする、青空の下で。平和で幸せなひととき。”

みたいに意図的に主語をずらすと、神田の感情が想像しやすいのです(私だけでしょうか)。

 

せっかくの一人称語りなので、

論理的な文法で状況を如実する語り口の中に、

感情が先行して状況を説明するシーンが(スパイス程度に)あるともっと楽しめるな、と思いました。キャラククターの人となりが想像しやすくなるので。

……完全に好みの話ですね。うん。

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