神様は少々私に手厳しい 1(守野 伊音)レビュー


●あらすじ

二度目の異世界転移はかつての敵対国で、十年後の世界だった。珍妙な言動で混乱の時代を駆け抜ける、少女の奮闘記が今始まる!

戦時中のグラース国に転移した須山一樹(18歳、四姉妹の末娘で息子が欲しかった父に男っぽい名前をつけられた)

は、年下の少年、ルーナ・ホーネルトと恋に落ちた。

しかし、長かった戦争が終わった夜、気がつくと日本に帰っていた。
それから十ヶ月後。何の因果か、一樹は再び異世界にいた。
だがそこは、敵対関係にあったブルドゥス国の王都。
しかも、自分が消えた夜から十年が経過していた。
行き場のない一樹は、偶然出会った少女リリィが経営する娼館で下働きとして過ごすことになる。
二度目の異世界生活に慣れてきたある日、一樹はこの十年で名が知れ渡った『黒曜』という存在を知る。
それは、終戦の夜に消えた異世界人の自分が、終戦の女神だと担ぎ上げられたものだった。
自分を指すとは思えないほど美化された『黒曜』は、戦後の混乱を治めるのに利用されてきたと言われて愕然とする。
顔は普通、頭脳は残念珍妙な言動を駆使して、混乱の時代を駆け抜けるカズキの奮闘記がここに始まる。


●名(迷)言達

「ああ、やめて! 可哀相な子を見る目で私を見ないで! 私は可哀相な子じゃなくて残念な子です!」by【カズキの語り】

「過去の恥をしみじみ暴露された。皆の生暖かい目が優しくつらい!」by【カズキの語り】

「ぞ、ぞり?」by【カズキ】


●みどころ

主人公の性格が、猪突猛進で、優柔不断でとにかく元気です。

色気のかけらもありません。

上掲したカズキ語り口が、好みだったならばオススメです。

あと、基本的にカズキは異世界での言葉が不慣れなので、

会話するときは、彼女だけカタコトです(”にょろり”、とか”ぞり”とか言います)。


●読んでみての感想

重厚な世界設定のある作品だと思います。

なんとなくポテンシャルを秘めてる感じはしているのですが、

その秘めたる魅力の魅せ方がイマイチで、ちょっと残念でした。

よく言えば”ストレスフリー”で、悪い言い方をすると”盛り上がりに欠ける”感じです。

これはシリーズの一作目で、
同じ異世界に二度目の転移を経て、主人公カズキと恋人のルーナが再会するまでが中盤までの山場です。

語り手は基本的に主人公の一人称が主ですが、シーンに合わせて他のキャラクターに変わることもあります(群像型というのでしょうか)。

 

ルーナに再会するまでの盛り上げ方として、

カズキが再び異世界に飛ばされた後(カズキ時間で10ヶ月経過、異世界では10年経過)。

彼女と面識のあるキャラクターで「コイツ誰だっけ?」みたいな親密度の低い人間から順番にカズキが再会を果たしていき

ルーナ以外のキャラクター達の視点からカズキの人物像を浮かび上がらせ、外堀を埋めるように読者に情報を補填させる。

という方法が良くなかったんだと思います。

この展開の仕方はキャラクターと過去を共有していないと、面白くないと思います。

 

 

序盤のエピソードの要約します(ネタバレ)。

カズキが街中で見覚えのある人物に出会います。

十年後の世界ということも有り、誰なのかお互いが中々思い出せません。

で、パッと思い出したカズキから最初に出た言葉が

「兎パンツ」
「やはり貴様か!黒曜!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

カズキが逃げます。

・・・・・・このエピソードの後で、カズキが再会した男は実は敵国にいた貴族で、カズキが10年前に捕まっていた頃、転んだ拍子に当時15歳だった彼のズボンに手をかけて脱がし、公衆の面前で彼の兎パンツをさらした。という設定が読者に簡潔に語られます。

これが凄く勿体ないと感じました。

”兎パンツ”エピソードをあらかじめ知っていたら。間違いなく

「兎パンツ」の所で笑えたからです。

”ああ、こいつか!”という再開の喜びを体験できたと思います。

 

この作品はカズキにとっては10ヶ月前の、異世界の住人にとっては10年前に起こったエピソードを全て端折っています。

情報を補填する為に、ストーリーが進行している最中にちょくちょく回想に似た解説が挟まれます。

そのせいで、読みふけっている最中にプッツリと現実に引き戻される感覚を何度も覚えました。

解説で説明されるエピソードはどれもよく構成が練られているもので、

偉そうな言い方をすると、その部分でこの作品がもつポテンシャルを感じました。

 

「年下の恋人が、再開したときは年上になっていた」

という展開を早急にしたのが”盛り上がりに欠けた原因”なのだと私は思います。

 

この作品の0巻が読みたいと思いました。

 

この作品のプロローグを0巻のエピローグに持って行くことで、

クリフハンガーにはなりますが、この巻は楽しんで読めるのではないかな、と。

カズキが噛みしめる”再会の喜び”を共有できればいいなと、思いました。

 

主人公が2回異世界に行く作品だと 漫画の ふしぎ遊戯(ウィキペディア)が有名ですね。

これは、一回目の異世界転移で、キャラクター達の出会いが丁寧に描かれていて、

その分の二回目の異世界転移によるキャラクター達の再会の喜びと、絶望感が凄かった記憶があります。

 

 

 

「兎パンツ」のくだりで

漫画「セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん(ウィキペディア)」のワンシーンが頭をよぎりました。

どういうシーンかというと

セクシーコマンドーという格闘技があって、その全国大会でわかめ高校の藤山起目粒(ふじやまおこめつぶ)ことフーミンの試合での出来事です。

この格闘技は「隙が無い強者に、無理矢理隙を作らせて倒す」という理念で、砕けた言い方をすれば

「奇抜な動きを見せて、相手を動揺させる」という競技なんですね。

その試合でフーミンは、先制攻撃を仕掛けます。

フーミン「ぼくのとっておきを見せてやるぞ!!」

フーミンは自分のズボンの”社会の窓”を開けると、そこからある物を取り出します。

入れ歯でした。

フーミン「うわー! これはおじいちゃんの入れ歯ー!! 半年前から探してたんだよねー」

あたりはシーンと静まりかえります。「意味がわからん・・・」と

それを察したフーミンは対戦相手に言います。

フーミン「今のはね、つまりね、おじいちゃんの入れ歯なんてモノが半年以上もズボンの中に入っているという非日常的な所が面白い所でね・・・・・・」

何処が奇抜な動作をしているかを、相手に説明するんですね。

そこで対戦相手が「彼を見ているのがつらい」

と言って試合を放棄するという展開があるのですけど

試合は勝ち抜き戦で、次の対戦相手でフーミンは

フーミン「お母さんの指輪編!」

と言って、自分のズボンの”社会の窓”を開けると、

再び入れ歯を取り出します。

フーミン「やあ、あったあった。去年の暮れから探してたお母さんの指輪!」

 

これ、指輪と入れ歯を出す順番が逆だったら、何が面白いかわからないですよね。

入れ歯を指輪に見立てている光景が最初に出てきて、その後に入れ歯を入れ歯として扱うシーンはそれはそれでシュウルレアリズム的な面白さはありますが・・・・・・

・・・・・・だめだ! 比喩がイマイチだった。

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