”ひょっとしたら、時代が君を選んだのかもしれないよ?”
○あらすじ
「傭兵」それは、勇ましい呼称と裏腹に、この時代において最底辺とされる職業である。
王立大学院(アカデミー)の学生ウィラード・シャマリは、順調にエリート街道を歩んでいた。
しかしある日、伯父である傭兵団長ガイアスバインに、事務長の代わりをしてほしいと頼まれる。
底辺職の傭兵の実地調査をしているものはいない。
職に炙れ、飢えた傭兵は、盗賊活動もする。 これは国家が抱える問題でもあった
混迷の時代に沈む傭兵の”新たなる時代を”見いだし、結果を残せたのなら、自分の好きなところに仕官できる・・・
先生の助言もあってアカデミーを休学し、傭兵となる決意したウィラード。
しかし、エリートに向けられる傭兵たちの目は厳しかった。
「お前らが毎日パンと肉を食えるようにしてやる」
傭兵団員の前で大見得を切ったウィラードの、悪戦苦闘の奮闘記。
○名(迷)言達
「むー」by【イルミナ(無口で無表情な幼なじみ)】
「おまんじゅうをもらってきた。お前らも食え」by【ティラガ(傭兵団の豪傑)】
「もうちょっとしたらまとめて相手しやるから、それまで遺言でも考えとけ」by【ウィラード】
「よくわかんねぇけど、兄貴がなんかヘマやらかした、ってのはわかった」by【ジュラス(ウィラードの弟分)】
○みどころ
切った張ったの戦闘シーンは殆どありあません
しかし、殆どの章で”駆け引き”という戦闘シーンがあります。
主人公が経理のずさんな傭兵団の事務員(実質の事務長)として
経営難を脱却するため、取引先各所や、競合との交渉に奔走します。
仕事を受注するための交渉カードには
情報のやりとりだけでなく、見得や、手段として武力行使(傭兵の暗黙のルールに則った喧嘩)
などがあります。ワクワクします。爽快です。
主人公の一人称の語り口が、頭脳はそのままで傭兵団色に染まっていく過程もみどころです。
○読んでみての感想
縁故の義理と、アカデミーの先生の囃子もあって
一流の仕官ルートから外れ、
社会的底辺の立場に属する傭兵団の事務長を引き受けることになった主人公、ウィラード。
ずさんな管理をしている傭兵団でそろばん勘定が出来る人間などおらず(無口なヒロインくらい)
財政難の中、ウィラードは実質
経理、営業、仕事の割り振りまでを一挙に担うことになります。
彼が一流のアカデミーで培った武芸と頭脳で、競合の傭兵団や交渉先を奔走するのがこの話の主軸です。
特に面白かったなぁと思ったのは、ウィラードは
武芸や頭脳は他よりも多少秀でてはいるものの、万能ではない。
というところです。
失敗もするし、誰かに頼ります。
そして頼れる相手を増やすために、自分が信頼を得るための方法を模索して、実行します。
ウィラードの心理(語り)の中には、「自分はアカデミー出身である」という自負があります。
性格がちょっとナルシストなんですね。
それでも、自負を持ったまま自分を客観視することが出来ていて、ユーモアがあります。
このユーモアが交渉事にしっかりと活きています。
自分では「これが理想!」みたいなことでも、「相手にはきっと伝わらないだろな」と明晰に判断して、心の中で悶えてる様に笑えます。
かといってウィラードのユーモアが彼を頭でっかちにするわけでもなく、その客観性が「勝負どころ」もしっかり見極めます。
度胸で押し通すシーンもままあってワクワクしました。
主人公以外のキャラクターにも、それぞれ立場と哲学を持っていて、
それが、この物語のみどころとなる“駆け引き”を盛り上げています。
続きが気になります。 おすすめです。
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