勇者のセガレ(和ヶ原聡司)レビュー


”単身赴任? ああ、まぁ、言いようによってはそうと言えるかもしれん”

●あらすじ

所沢市の一般家庭の長男である剣崎康雄(高校三年生)が主人公。

ある日、「急いで帰ってきて」と母からの連絡で家に帰ると

父、母、妹の他にこの家には似つかわしくない謎の金髪美少女がいた。

異世界から来たという美少女はディアネイズ・クローネ(ディアナ)と名乗り、こう言った。

「私は、救世の勇者ヒデオ・ケンザキ召喚の使者としてやってきました」

ヒデオって俺の親父じゃねーか!

「父さんは会社を辞める。辞めて、アンテ・ランデへ行く

30年前、康雄の両親は異世界を救った。 その事実と証拠を目の当たりにした康雄は…

異世界の平和を取り戻す前に、家族の平和が大ピンチ!?

『はたらく魔王さま!』コンビが贈る、新たなる庶民派ファンタジー開幕!

 


●名(迷)言達

「我が名はヒデオ! 開かれし地の自由を掴む者なり!」by【剣崎英雄(48歳、会社員)】

「あ、ちなみに本物の乙女心持ってる子は絶対に自分で乙女心とか言わないから」by【帯刀翔子(元クラスメイト)】

「私を守って笑顔で死んだ人のことを、認知症になったって忘れない」by【剣崎円香(旧姓:杉浦円香、47歳、主婦)】


●みどころ

主人公の父母が「かつて異世界を救った英雄だった」という

一見するとコミカルな設定ですが(実際コミカルです)、

キャラクター各々の心情が深く描かれていて、ただ笑えるだけの作品ではありません。

”選択の自由”

というとても優しくて残酷な状況に苦悩し、

成長していく主人公の姿がみどころです。

バトルシーンもあります。盛り上がります。


●読んでみての感想

キャラクターが異世界に行って大活躍する物語はたくさんあります。

すっかり様式化されている設定の中で「どのようにして差別化をするか」に、読者(私です)は期待しています。

そしてこの作品は見事にその差別化に成功していると思います。

・異世界に行くか否かを選ばせてくれること。

・異世界に行くのが主人公ではなく、主人公の父であること。

この二つの設定の掛け算が

様式美(悪く言えばマンネリ化)を覆す破壊力を持った作品

を生み出したのだと思います。

シチュエーションは数多くあれど

異世界(~転生、~転送 ~召喚)ものと呼ばれるジャンルでほとんど共通している

・突然異世界に飛ばされたキャラクターが主人公。

という設定様式を逆手にとったアンチテーゼです。

 

物語は、異世界の存亡を賭けた家族会議から始まります。

異世界に再び脅威が押し寄せ、

救援を求めて異世界からの使者(多分メインヒロイン)が主人公康雄の父母を尋ねてきます。

使者は父である英雄に異世界を救ってくれるよう懇願します。

英雄は一家の大黒柱でありますが、異世界にはかつて一緒に戦ったかけがえのない友達がいます。

康雄とその妹が独立できるまでの貯蓄があることもあり、英雄は単身で異世界に行く決意をしますが

康雄はそれを聞き入れません。

しかし

康雄がどんなに否定し、言葉を紡いでも、父の決意は揺らぐ気配がありません。

 

「なぜ自分の言葉が父に届かないのか」

紆余曲折を経て、康雄は父母の過去を知り、二人の意思を想うことでその答えを見つけます。そして決めます。

物語の主軸はとてもシリアスですが、不意打ちのように”和み””笑える”シーンをナチュラルに挟んでくるので楽しく読めます。

これらのコミカルなギャップが、キャラクターの魅力を引き出しています。

 

異世界ものの作品を読む度に、私は

”作品にうち捨てられた人々”

の事を考えていました。

現実世界に置き去りにされた(る)キャラクターです。

この作品の主人公がまさに”置き去りにされる側の人間”です。

今の私にとって読みたいと思えるタイムリーな作品」でした。

次巻が待ち遠しいです。

 

 

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