真行寺美琴のぬいぐるみ事件簿(飯田雪子)レビュー


”これがあの、プリクラってやつか。女の子はこういうのが好きなんだって? 美琴、じいちゃんと一緒に撮ってみるか?”

●あらすじ

幼い頃に父をなくし、母と2人で暮らしてきた高校1年生の美琴。父方の祖父の死で、ある日突然莫大な遺産を相続することになった。

その日からじいちゃんが遺したくまのぬいぐるみ(ゲーセンの景品)が夢に出てくるようになった。

夢の中ではくまのぬいぐるみが話しかけてくる。

「おまえに一億円をやろう。好きに使うがいい」

パッと目を覚ますと、くまのぬいぐるみが動き出し、美琴の顔をのぞき込んでいた。

ぬいぐるみにはじいちゃんの霊が宿っていた。

そして、母が同級生だと紹介した男がイケメンで…

コミカルな展開で温かな家族の絆を描く、ハートウォーミングストーリー。

 


●名(迷)言達

「うわ。ウィンクとか。こういう場面で本当にする人いるんだ」by【美琴の語り】

「まじ、じいちゃんだ」by【じいちゃんが憑依したくまのぬいぐるみ】

「子供扱いすんな。俺に、可愛かった時代なんてねぇんだよー」by【時矢(中三男子)】


●みどころ

美琴の一人称でストーリーが進行します。

美琴(高校一年生)と時矢(美琴の従兄弟、中学三年生)とじいちゃん(ぬいぐるみ)の

組み合わせが、絶妙な化学反応を起こしています。

些細な事でも「ここは譲れないんだ!」という変なプライドがそれぞれにあって(とくにじいちゃん

それが会話の中でチラチラみえてくるのが、ほっこりして楽しいです。

 

アクション(動作)に対するリアクション(反応)が丁寧に描かれています。

不自然なレスポンス(返信)をして無理矢理ストーリーを展開させるようなシーンは

ありません。

登場人物が自然体でリアクション(台詞、動作問わず)を返し合いながら

ストーリーが止まる事なく進行していくので、感情移入しやすく

物語の世界にスッと入ることができます。


●読んでみての感想

登場人物の心境や関係性の変化を丁寧に描くこと

に重きをおいた作品だと思いました。

文庫本の帯には

”ほっこりユーモアミステリー!”
というキャッチフレーズが銘打ってありますが、

ジャンルとしては”ミステリー”よりも”サスペンス”の方が私にはしっくりきました(語感では断然”ミステリー”の方が好みです)。

”ミステリー”と”サスペンス”は、解釈イロイロで定義が曖昧です。

なのでここでは

ミステリー=”謎解き”が醍醐味のストーリー。

サスペンス=謎解き以外で読者に”緊張感”を与えるストーリー。

もっと単純にすると、物語序盤の段階で

ミステリー=読者には犯人がわからない。

サスペンス=読者には犯人も犯行の動機もなんとなくわかる。

と、定義させていただきます。

その上で私は、この物語を”サスペンス”だと思いました。

 

公開されているあらすじや、ストーリーの序盤でわかることを箇条書きします(あくまでも物語の序盤です)

・高校一年生の美琴が祖父の莫大な遺産を相続した。

・祖父の死後、一月もしないうちに美琴の母(祖父の息子である夫は美琴が3歳の時に他界)の同級生の久我(イケメン)が家に尋ねてくる。

・母の再婚を期待する美琴だけど、久我は美琴と二人きりになりたがり”良いムード”を創ろうとしている。

 

…はい、大体謎は解けました。 そしてすごいな」と思いました。

 

なにが「すごい」と思ったのか

”謎解き”という強力なスパイスを序盤で手放したことです。

この作品に謎解きは必要ありません。

必要なのは

悪役を通して、物語の中に”疑念”を持ち込むことです。

この”疑念”を解決するために、

昔から良く見知った、それでいて疎遠になっていたキャラクター達が結託します。

そして騒動を解決する課程で

主人公を含め、登場人物の心境の変化と成長を描いています。

現実世界にちょっとだけ不思議(じいちゃん憑依)を混ぜた王道のストーリーに

過度なスパイス(ミステリー要素)をあえて加えないことで

キャラクターの人物像や、関係性がより際立っています。

”味付けはいらん。素材で勝負!!” みたいな作品です(※料理対決はしません)。

一連の騒動を経たあとの美琴達の心持ちの変化をみて、温かい気持ちになれました。

 

 

ちなみに

”ミステリー””サスペンス”の他にも、イマイチ定義が曖昧な

”スリラー”

というジャンルがあります。”スリラー”については

”どんでん返しの連続”

と私の中で定義しています。

例えば

「文庫本の帯に”ミステリー”と銘打った本の中身が、読んでみたら実は”サスペンス”だった!」

と途中まで思わせておいて、最後まで読み進めていくと

「実はサスペンスではなかった!」

と、先の展開がまるで読めない、ワクワクするようなジャンルが、私にとってのスリラー”です。……はい。

”ほっこりユーモアミステリー!”

”ほっこりユーモアサスペンス!”

”ほっこりユーモアスリラー!”

帯のキャッチフレーズを3パターン並べてみました。

サスペンス”と”スリラー”の文字が盛大に浮いていて、これはこれで興味をそそられますが

”ほっこりユーモアミステリー!”

がやっぱり語感として馴染みますね。

 

 

 

 

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