”猫というのは千差万別、十猫十色。”
●あらすじ
魔獣が跋扈する森の中に一匹の竜がいた。
その竜は、かつて魔力を持った猫に育てられた竜だった。
竜と猫の寿命は大きく異なる。
母猫が去った後、大きくなった竜は母猫が残した子孫たちの子育てに協力し、何世代も見守り続けていた。
森の近くに住む人間達は敬意を込めてその竜を「猫竜」と呼んだ。
猫竜が育てた猫たちは、成猫すると自由気ままに各々好きなところで暮らし始める。
それが森の中だけでなく、気に入った人間の所に住み着く者もいるから困ったものだ。
ある猫は、冒険者を志す王子と。
ある猫は、孤児院の少女と。
一つ所に止まらず、さすらい続ける流れ猫もいる。
これは、そんな猫たちが歩む生涯の
なんてことない日常や、ちょっとスリルのある出来事や、転機が訪れる前触れを切り取った
八つの不思議な物語。
●名(迷)言達
「おぼえたよー」by【竜に育てられている子猫】
「笑っとらんで、やめさしぇるぉう」【クロバネ(熊をも倒す猫の英雄)】
「あらやだっ! 私もお節介だから、その気持ちわかるわぁー!」by【母猫】
●みどころ
本全体の構成がワクワク感をかき立てます。
この本には、同じ世界設定の中で生きる
人や猫や竜の生活を切り取った八編の短編作品が収録されています。
初めに描かれているのは4つのプロローグ。
1つにつき見開き1枚分(2ページ分)という決して多くはない文章の中で
描かれる物語ですが、起承転結がしっかりと成立していて
行間にはドラマが凝縮されています。
八つの短編はこれらのプロローグを経た後日談にあたり、
読み進めると
まるで古い友人に再会したときのような、懐かしさや高揚感を覚えます。
短編集ですが、一気読みがおすすめです。
●読んでみての感想
本作品の世界には普通の猫もいますが、
スポットが当たるのは”ケットシー”という猫です。
ケットシーといえばヨーロッパの妖精猫(ウィキペディア)ですが、
この作品では、「主に森に生息している、個体数は少ないけれど魔法に秀でた猫」を指します。
通常の猫とは違い、人の言葉を話せます。
作中の造語で”十猫十色”という比喩が使われます。
森にずっと住み続ける猫。
人と暮らし、魔法を教えたり、教えられながら、お互いを高め合う猫。
森の生態を観察するのが好きな猫。
人の行動を観察するのが好きな猫。
一つ所に止まらない流れ猫の猛者。
など、作品内では十猫十色の読んで字の如く様々な猫が登場します。
しかし、そんな猫たちの中で共通している事があります。登場する猫は皆
”誇り高く、世話焼き”です。
誇り高いと表現したのは、彼、彼女らは(勿論猫ですよ)”自由気ままで奔放”であり、
何処までも素直で自分が楽しいと思った事をトコトン貫く生き方から。
さらに猫、人間問わず困っている者をほっとけない世話焼きな性格が、
個体ごとの生活をより個性的に確立させ、それぞれが歩む”十猫十色”の人生猫生の幅を拡げています。
4つのプロローグを読めば察しがつきますが
その後に読む八編が、それぞれで独立した物語ではなく、
大きな一つの物語であることに気づくと思います。
エピソード同士が交錯する箇所はどこなのか、
そういった繋がりを見つける作業も楽しいと思います。
調べてみるとシリーズものらしく(前作は「猫と竜」というタイトルです)
前作では、どうやら本作品のプロローグの部分を収録しているようです(この時点で私はまだ読んでいません)。
続編にあたるこの作品をなんの予備知識もなく読みましたが、特に違和感を感じなかったので
どちらから読んでも大丈夫だと思います(本作品から読んでも、プロローグを補填する事が出来て楽しめそうです)。
ところで、
猫の可愛いさって独特ですよね。
犬も可愛いけれど、猫の可愛さとは毛色が違います。
犬の可愛さは”癒やし”だけれど
猫の可愛さは“魅惑”です。
猫の可愛さには、なんかこう、”ひりひり”するものを感じます。私だけでしょうか?
この”魅惑”の可愛さは魔法の類いだと思っています。 …私だけでしょうか?
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