”皆で飲む酒は旨い。それは何処の世界でも変わらないようだ。”
●あらすじ
主人公、鹿島仁(カシマ ジン)は半ば強引に勝ち取った会社の有給休暇を堪能すべく、
ツーリング仲間達に呼びかけて、旅行を企画した。
しかし、各々の”大人の事情”が重なって全員ドタキャン。独りで北海道を旅することになる。
「独りバイク旅も悪くはないなぁ」とそれなりに楽しんでいる最中、
雷に撃たれた。気がつくと傍らにバイクはなく、見知らぬ場所にいた。
とにかく人里を探そうと歩き回っていると、見たことのない生物と遭遇し、自分がこの世ならざる場所にいることを認識する。
そして、自分の身体に変化があることに気付いた。
謎の生物を見ながら「これはなんだろう?」と考えた瞬間、
頭の中にその生物の情報が流れてきた。まるでゲームのステータス画面を見るように。
「自分はなんなんだ」と疑問を持つと、自分のステータスも見ることができた。どうやら「雷」の魔法が使えるらしい…。
やがてジンは知る。
そこは中世ヨーロッパを思わせる封建社会で、身分差があり奴隷があり剣と魔法と魔物が混在する世界。
これは見知らぬ世界で新たな人生を歩きだす、一人の青年の物語。
●名(迷)言達
「今日は長い夜になりそうだ…」by【ジン】
「ああ、なんか苦くて塩っぱくて不思議な味だな」by【ジン】
この街にカレールーが売ってるとは思えないby【ジンの語り】
●みどころ
王道ファンタジーを読みたい方におすすめです。
ファンタジーな世界観にゲーム的な設定を融合させることで
目の当たりにすると「ちょっと残酷だな……」と思ってしまう場面が緩和されていて
読みやすくなっています。
●読んでみての感想
主人公のジンが生きていた世界では既に両親が亡くなっています。彼は独身の27歳です。
久々に取れた会社の連休を利用して、同級生だった友人達を集めて旅行を企画するも、
27歳ともなれば各々が様々な事情(社畜、親孝行、妻子持ち等々)を抱え始めるお年頃。
結局誰も折り合いが付けられず、彼は独りで旅行へ行き
雷に打たれて異世界に飛ばされてしまいます。
この作品で「いいなぁ」と思った所の一つは、
主人公が異世界転生ものにありがちな
「人生をやり直したい」
のような前向きな願いを持ちながら転生(転送)を果たさなかったことです。
大概この手の主人公は短いプロローグの部分で
現世での負い目などを説明する場面が多い中
「独りでも旅を満喫するぞ!」
と半ばヤケになりながらもバイクに跨がっての一人旅を堪能している半ばで
雷に打たれます。
ニュートラルな心持ちで転生して(生きていて?)よかったと思いました。
「なぜ良かったのか」と問われてしまえば、
単純に「”人生をやり直したい”という動機で活躍する主人公に悲壮感を覚えてしまうから」という主観的(好み)な答えしか返せないのですけど…。
しかし、この”ニュートラルな心持ち”というのが、結構大事な部分だと思います(ここから先がもう一つの「よかったなぁ」と思った所です)。
急に異世界に飛ばされたジンはなんとか生き延びようと行動を起こし、
結果、エルフ(ヒロイン)の家族と出会って居候の身となります。
ここで、自分が現世で当たり前のように過ごしていた日常の中で
完全に麻痺していた感覚を思い出します。
”寂しさ”です。
異世界(見知らぬ土地)でヒロイン家族と食卓を共にしたジンは
自分の奥底に隠れていた願い(望み)を見つけます。
食卓を共にする家族を持つこと。
現世とは違う弱肉強食の世界でジンは強くなろうと決意します。
「自分のせいで誰かを悲しませる訳にはいかない」
その動機には、納得も共感も出来ました。
最初から願いを持った人間が異世界に行くよりも人間臭さを感じました。
戦闘シーンについて。
主人公の”魔眼”能力は相手のステータスを知る能力ですが、副産物として自分の能力を効率良く底上げ出来たり、
相手の能力を取り込んだり出来るという、ある意味で”チート”能力です。
が、結局は取り込んだ能力も鍛えなければ使い物ならないという部分で”制約”が働いて、主人公が無尽蔵に強くなるという展開は今の所ありません(他者よりも成長が早いというアドバンテージが得られている程度です)。
なので、強敵が現れた時に緊張感があって飽きません。
相手の情報が事前にわかる能力って、戦闘シーンに臨場感を持たせるのが大変だと思います。
ピンチから脱却するために「相手の能力の秘密を解明する」という展開が創りにくくなるからです。
作中、戦闘シーンが結構多くあったにも関わらず毎度ユニークな展開で切り抜けるので、面白いと思いました。
次巻が楽しみです。
個人的には、序盤で登場した主人公と同じ”魔眼”能力を持っていた魔神の伏線が気になります。
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