”気持ちの良い、癖になりそうな幕引きだった。”
●あらすじ
白島一花(いちか)は中学三年の秋、幼なじみが受験するという高校に、
なんとなく進路を検討する一環として、
なんとなく見学に行った。
そして運命と出会った。演劇だった。
「私もここに入る!」
成績は合格ラインギリギリ。入学試験を根性で乗り切った一花は
花咲高校演劇部に入部するため、演劇部部長の所へ挨拶に行く。
ところが「素人は必要ない」と入部拒否をされてしまって……?
演劇経験”ゼロ”の一花が送る、”ゼロ”から”一”になるまでの物語。
●名(迷)言達
「どこかで売ってるかな、TPOグラムいくらくらいかな」by【一花の語り】
「天は二物をあたえずかぁ……ホントに、制服のままで来れば良かった」by【岸川くん(イケメン殺陣男子)】
「一花が頑張ってることくらい、ちゃんと知ってるわ」by【小雪(幼なじみ)】
●みどころ
素人だけど妥協しない、直球ど真ん中しか投げないピッチャーのような主人公です。
彼女の行動を見ているだけで元気になります。
高校演劇の一つの作品がどのように創られていくのかを、経験ゼロの主人公の目線から垣間見ることが出来るのが魅力です。
著者が高校時代演劇部(あとがきに書いてありました)ということもあって
「照明の光が暑い」とか、「舞台用のメイクは落とすときが大変」など
経験者しかわからない”あるある”が書いてあって楽しめます。
●読んでみての感想
青春あるのみ!!
可憐で元気いっぱいな一花が青春街道を猪の如く直進し続ける物語です。
青春街道は何処にあるって? 一花にとっては部活動である演劇の中です。
時には躓くこともあるでしょう。
大樹にぶつかる時だってあります。
それでも一花は突き進む。舞台に魅せられたから。
私個人の話ですが、昨日一花と同い年でありながら、性格が全然違う女子高生が主人公の作品を読んだので(おにぎりスタッバー(大澤めぐみ)レビュー)
「青春っていろいろあるなぁ」
と感慨深い気持ちになりました。
台詞が割と多め(これも昨日読んだのと真逆)で、演劇部員や幼なじみの会話のやりとりで物語が進行していきます。
舞台というのはキャスト、スタッフ含めると結構な大所帯になりますが
この作品では出演者である主人公の一人称で物語が進行するので、キャラクターは”演出家”と”相手役”の二名にスポットがあたります。
これは英断だと思いました。全部のキャラクターを掘り下げようとすると、ページ数が足りなくなるのは明らかだったので。
はじめは観客として舞台で演じる女性の華やかさに魅入られて入部した一花ですが、
稽古を進めていくうちに、その奥深さにさらに惹かれていく姿がほほえましく思えました。
気になった部分は、この作品は”高校の演劇部”という設定ですが、「部活動っぽくないな」と感じた所です。
原因は一花以外のキャスト、スタッフがスーパーマンばかり(所謂天才)だからでしょうか。
思うようにうまくいかなくて、誰かが誰かに頼るというシーンが(一花以外に)なかった。
部活動の勝手なイメージですけれど、一つの作品をみんなで創るというのは
往々にして「あーでもない」「こーでもない」
と試行錯誤を重ねて作っていくものというのがありました。
廃部寸前の予算カツカツ設定だけれど、それを「どうやって工面しようか?」という場面もなかった。
これらの場面がなかったというのは、単純に”一花の目に映らなかった”だけで、本当はあったのかもしれません。
結果的に一花は自分に与えられた役に没頭することができました。
だからこそ話がブレることなく進行できてよかったと思う反面、
予算不足+部員不足設定があるにしては、分業で各々の仕事に徹している部分が気になりました。
「これは部活というより”プロ”の仕事だな」
みたいな不自然さを覚えました。
余談になりますが、
「時の花」
という言葉が舞台にはあると聞いたことがあります(誰が発した言葉かはわかりません)。
これは新人女優を指していて、
「経験も技量もない素人女優が、舞台上では時として一世風靡の花形スタアよりも輝く事がある」
みたいな意味だったと記憶しています(うろ覚えです)。
初めて舞台に立った女優には”邪念”がありません。
「客からはこう見えてる」や「ここで動きを変えた方がいい」
と考えるような心の余裕も、技量も、経験もなく、一心不乱に役に没頭できるから輝くそうです。
経験や技量が身についた時、そこに邪念が生まれます。
初めて舞台に立った時のような演技をすることが叶わなくなります。
輝きは必ず失って行き、二度と取り戻せないその儚さから
「一時の花」
とも呼ばれているそうです。
主人公の名前は ”一花”。 ……”一時の花”。
儚いですねぇ… 青春ですねぇ……
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